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龍虎繚乱記 -第一幕-

↓の続き。
何も始まらないまま唐突に終わります。
 世は戦国――――血で血を洗う乱世である。
 数多くの武将が天下を得んとひしめきあっていた。
 親兄弟で殺し合うのも珍しくないこの時代、民は身を寄せ合って震えるしか術を持たず、働き手は雑兵に取られ、子供の人攫いや人買いが横行する。
 一見して異人とわかる稲穂色の髪や青玉石の瞳を持ちながら、色茶屋だの見世物小屋だのに売り飛ばされなかったことは、幸いであると言えばそうなのだろう。どちらがましかと問われても、今となっては比ぶべくもない。
 あの男こそ天下に最も近いのではと実しやかに囁かれる武将のもとに、依織は居た。敵を蹴散らし容赦なく斬り捨てる、その戦い振りたるや猛虎の如しと言われ―――故に畏怖を込めて虎王と呼ばれた男―――迅雷王のもとに。





 依織は父を知らぬ。
 物心ついたときにはすでに母と二人暮らしであった。
 どういう理由でか海の向こうからこの国へ渡ってきたという母。依織の金の髪や青い目は間違いなく母親から受け継いだものであり、しかし身の半分にはこの国の人間の血が流れているという。
 正直依織には、国や血などにそれほど意味があるとも思えなかった。故郷といえる土地がなくとも、父親が誰と知れなくとも、時折注がれる好奇と畏怖の視線を除けば生活に何の不安もなかった。母とふたりで静かに暮らしていければ、それで良かったのだ。

 平穏は永くは続かぬということを、壊されてみて初めて知った。



「帰った」

 寝所の床を整えているところへ、戦場からの帰還を告げる声が低く響いた。
 ぞんざいに御簾を跳ね上げた男は、別段機嫌が悪い訳でもないのに周囲の者を震え上がらせるだけの迫力を備えている―――依織には無論、効かぬけれど。

 幾度めの戦であろうか。
 男はいちいち結果を告げない。聞かずとも勝利に終わっただろう事くらい容易に察しがつく。いつからか数えるのもやめてしまったが、依織の知る限りこの男が敗北を喫した事は、ない。

 湯で洗い流して来たのだろうに、染みついたように消えない戦の名残を依織は感じ取ってしまい、隠そうともせずに顔を顰めた。
(血の匂いだ)
 この十年間ですっかり慣れきってしまっている筈なのだが、血の匂いは未だ依織を慄然とさせる。もはや朧気にしか手繰り寄せられぬ遠い記憶の中で、噴き上げる飛沫の赫い色だけが鮮明だ。

「気に入らねぇか」

 男は上機嫌に喉を鳴らした。
 依織が血を嫌うと知っていて、面白がっている節がある。

「――――いい、え」

 正直に答えるべきかと逡巡して、ことばが少しぎこちなくなった。
 こちらのどういう反応を欲しているのか、十年経った今でも量りかねてばかりいる。わかっている事といえば悪趣味で意地悪で、とかく嫌がるのを喜ぶ傾向にあることだ。
 そして依織は彼が、周囲の誰もが思い通りになるという状況に辟易している事さえ知っているので、あえて逆らってみせるのである。勿論、失敗して逆鱗に触れてしまうことも多々、ある。けれどもう彼の事を怖いとは、思わないのだった。
 畏れなど、とっくの昔に捨ててしまった。
 でなければ彼の傍で生きるなど、出来る筈もない。



 つい先刻まで刀を振るっていた、高揚の余韻を拭い切れぬままの尖った瞳がひたとこちらに向けられる。心身共に昂って、軽い興奮状態にあるのだ。
 男は依織の腕をぐいと掴むと、床の上に引き倒した。


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続かない。

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